
探偵事務所に、一人の母親が駆け込んできた。大学生の娘・理沙が、机の上に手紙を残して、家を出てしまったという。手紙は、こう書かれていた。
お母さん、ごめんなさい。私が応援していたのは、山道を一気に下っていくあの人です。一目会いたくて、はるばる北の山までバスを乗り継いだこともありました。声をかけてもらえた日は、人生でいちばん嬉しい日でした。それなのに昨日、あの人が結婚したと知りました。お相手は有名なアイドルだそうです。ネットの記事で読みました。祝福しなければいけないのに、ここにはもういられません。出かける前に、お気に入りの映像をもう一度だけ見ます。『鷹森昂太のダウンヒル・ライド』。砂利を弾く音、荒い呼吸、ペダルをこぐ音、曲がる直前の「いくぞ」の声。やっぱり、あの人はすごい。さようなら。
探偵は映像を確認し、母親に言った。「鷹森昂太は、独身ですよ。結婚の話も出ていません」
「それなら、この手紙は、いったい誰のことを書いているのですか?」
手紙が示している真実として、最も正しいものはどれでしょう?
行き詰まったら、ヒントを順番に一つずつ開封してください。
鷹森が独身なら、手紙の「あの人」は鷹森ではありません。では誰でしょう?
映像から聞こえる音に注目してください。どんな距離で録音しないと、聞こえない音でしょう。
その距離で、同じ速度の山道を走れるのは、どんな人でしょうか。
手紙が示している真実として、最も正しいものはどれでしょう?
真相に最も近いものを選んでください。
理沙が愛していたのは、映像を撮影した人だった
答えは「理沙が愛していたのは、映像を撮影した人だった」です。
手紙には、息づかい、ペダルの音、カーブ前の掛け声が、はっきり聞こえる映像だと書かれています。遠くからカメラで撮ったり、空撮したりしても、こうした音は拾えません。撮影者は、鷹森のすぐ横を、同じ速度で走っていたのです。
それは、鷹森に並ぶほどの腕を持ったライダーだということです。理沙が愛したのは、鷹森ではなく、その映像を撮ったライダー(手紙の「あの人」)でした。結婚したのも、その人です。
手紙を最初から最後まで鷹森への思いとして読んでしまうため、「あの人」が別の人かもしれないという視点が出にくいのです。撮影者は映像に映らないので、存在を忘れがちです。
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